おじいちゃんが死んだ時
僕は泣きたくなかったし
泣かないと決めていた
僕はおじいちゃんが大好きだった
小さい頃はよく叱られていた分少し怖かったが
大人になるにつれどんどん仲良しになった
元々鋳型工場で中間管理職をしていて
とにかく真面目な人だった
読書が好きで
社会について憂い考え過ぎる余り知恵熱が出て寝込む日もあったと聞いた
おじいちゃんはカッコよかった
おじいちゃんと目が合うと
おう
と軽く手を上げ合って親友みたいな挨拶をした
姿勢もよくて
毎日お風呂掃除や植木の管理をし
欠かさず散歩をしていた
みんなが怯えるハチの巣を軽装備で駆除し
子供の頃からスポーツ万能
柔道・剣道・相撲・卓球・水泳・陸上・ボクシングもやっていた
オレが町で1番最初にピーコートを買ったんだと言っていた
そんなオレがモテない訳がないだろ?
とジョッキにお茶半分焼酎半分のとんでもない飲み方をしながら話をしてくれるのを聞くのが好きだった
千切っては捨て、千切っては捨てるようにモテたらしかった
人は必ず死ぬものだ
逆に死なない方がこわい
人の死を悲しむ理由はきっと
もっとこうしてあげたかったという後悔だから
僕はおじいちゃんとはいつ別れが来てもいいと思えるようにできる限り毎度誠実に接する事に徹した
仕事の昼休みに食後の睡魔に襲われ昼寝をしていたら
おじいちゃんがトントンと起こしてきた
何かと思ったら
干し柿食べるか?
だった
正直そんなに好きってわけでもなかったしとにかく眠りたかったけど
身体を起こして
ありがと。もらうわ。うまいね。
と一緒に食べた
おじいちゃんは透析を受けていてドライフルーツみたいな類のものなんて1番食べちゃいけなかったのに!
と母は呆れていた
ある日おじいちゃんが朝になっても部屋から降りてこなかった
脳内出血だった
仕事中に連絡を受け
昼休みに電車に乗って病院に行くと
病室には身内が集まりみんな沈んだ顔をしていた
脳の橋ってところが出血したって。
知っている 大事なところだ
母が
何か声かけてあげて。
と言った
おじいちゃんは目と口を力なく開けて
動かず遠くを見ていた
僕は
びっくりしたね!おじいちゃん。
まぁおじいちゃんは鉄人だからね。
大丈夫だよ。これなら問題ない。すぐによくなるでしょ。
と笑って言った
この前干し柿食べちゃったからなぁ。
あ、これみんなの前で言っちゃまずかったか。
でもあれは美味しかったから仕方ないよ。
身内も笑いだして
きっとすごく食べたかったのねー仕方ないよねー。
とその場に少し色が戻った
別れ際また来るから。といつものように片手を上げると
おじいちゃんは鈍く返事をして手を動かした
みんなびっくりした
え、じゃあ聞こえてたのかね!そっかそっかまたね!
どんな状況でも聴覚は最後まで残ると聞いた事があった
数日頑張ってくれたけどおじいちゃんは亡くなった
家族から報告を受け
そうか 最期までカッケェおじいちゃんだったな
と誇らしくて笑った
最期まで僕はいい孫であれたのではないかと思う
おじいちゃんが死んだ時
僕は泣きたくなかったし
泣かないと決めていた
家に着いておじいちゃんの前で笑ってお礼を言おうと口を開いた瞬間
歯止めが効かないくらい嗚咽した
こんなはずじゃなかった
泣くつもりはなかったと口に出したら
母にえ?なんで?と
ものすごく冷めた目で引かれた
おばあちゃんが亡くなった時に僕は初めて自分の気持ちを詩というものにした
テーブルに置いていたそれが見つかって
告別式で大勢の親族の前でおじいちゃんに泣きながら読まれた
僕は悲しさよりも恥ずかしさに下を向いていた
その詩はおばあちゃんの棺の中に入れられた
少ししておじいちゃんがこれで詩を書けと
ノートをくれたけど1つも書けなかった
おじいちゃんの棺には
僕が変な話をしてしまったせいで大量の干し柿が入れられた
多分あの時たまたま食べたかっただけでそこまでは好きではなかったと思うのに申し訳ない事をしたと思った
詩は書かなかった
おじいちゃん
こんなんでどうかな
落ち着いた時に父が
最期の方でおじいちゃんがお前の名前を呼んでいたから録音したと聞いた
また来るからと言っていたもんね
約束を守れていなかった
涙は必然だった
聴くか?と言われたが
やめとく。と言った