丸太

丸太が1本ある。

端をなんとか持ち上げて

腰を痛めないように気を付けながら引きずって運ぶ。

1人手伝いにきてくれて

端と端で向かい合って、抱えるようにして運ぶ。

また2人くらい手伝ってくれて

4等分でずっしと掴んで運ぶ。

野を越える。

 

また何人か手伝いに来てくれて

ようやく小脇に抱えるカタチで運ぶ。

誰かが歌い出す。

全身にかかる疲れをごまかすように

結構な声量で歌いながら運ぶ。

また何人か手伝いに来てくれて

肩に担いで軽々運ぶ。

森を越える。

 

気付くと結構な人数でこの丸太を運ぶ。

どんどん軽くなる。

肘を曲げ、手のひらに乗せて、リズム良く運ぶ。

まだ人は増える。

肘を伸ばし、親指・人差し指・中指の3点で触れるだけでも大丈夫なくらいで運ぶ。

まだまだ人は増える。

胴上げのように放り投げながら運ぶ。

一度思いきりに上空に飛ばして、軽く走ってキャッチするというスタイルで運ぶ。

山を越える。

 

数えるのももう面倒臭いくらい人は増えている。

丸太は、もう触っている感覚すらない。

というより、丸太は浮いている。

僕が気付いてみんなでその上に座る。

丸太は飛んでいる。

勝手に丸太は運ばれていく。

海を越える。

カモメといっしょに歌いながら、運んではいるのだから全員手は丸太に触れたまま

一緒に丸太に乗って飛んで行く。

 

飛んでいく。

飛んでいく。

飛んでいく。

 

 

 

もうみんな手伝わなくてもいいよと声をかける。

でもみんな最早ここから離れるという気持ちなどなく、

この丸太が浮いていなかった頃を忘れているくらいに当たり前になってきている。

空を越える。

 

怖くなって僕はそっと

丸太から手を離した。

運ぶのをやめた。

 

すると僕は陸地に立っていて

遠くに睫毛ほどの丸太が飛んでいくのが見える。

みんな僕がいなくなったことには気付かないまま丸太に乗って飛んでいく。

僕が運ぶのをやめたら

ひょっとしたら丸太は落ちるのではないかと少し思っていたのだが

それでも丸太は飛んで行く。

 

高ーく

まっすぐ

飛んで行く。

 

 

飛んでいく。

飛んでいく。

飛んでいく。