十九時の忸怩

外を見て

雨が降ったのかなと窓を開けたら

夜だった

 

僕はいつもビニール傘の中にいて

本来なら全て地面に落ちて流れて行くはずの雨が

触れていちいち目の前に留まる

 

実際にはもっと

クリアな世界なのだろうけど

アルミのラインで分断され

望んでいなくとも透明色のフィルターで

見える星と見えない星が出来

月は黄色の数が増える

 

生は近くで見ると美しく

死は遠くで見ると美しい

 

何番煎じかわからぬ嬉々としたジョバンニがまた何番線かに乗り込み

%かはNo.1000をとっくに超えたカンパネルラになる

 

それに洩れた大勢の人が「ならば」と今日も

銀河鉄道に無賃乗車する

 

出来心のキセルじゃ済まないぞ

親を呼ぶどころじゃない

みんなが泣くんだ

 

病院の壁に縦に並ぶ各階のエレベーターの灯りが

地から天に登るレールのように見える

身体も 気持ちも 吸い取られるようになりながらそれを首を上げ眺める

右手の中にチケットの感触がある

 

生は遠くで見ると退屈で

死は遠くで見ると美しい

より美しく見える絶妙な距離感を試みる

僕はこれくらいでいい

ここから先は

きっと

 

茹でたパスタの蒸気

外気温との差で出来た結露か

 

僕はいつもビニール傘の中にいて

本来なら見えなくていい水分が

いちいち全て目の前に張り付く

この一瞬を何秒でも

乾かぬ限り

いつまでも

 

外を見て

雨が降ったのかなと

窓を開けたら

 

いや

なんでもない